諸星大二郎『夢見村にて』

諸星大二郎の「妖怪ハンター」シリーズの『夢見村にて』を購入。以前から友人に勧められていた諸星大二郎の作品だったが、なんで今まで読まなかったのだろうというくらい最高だった。収録されているのは「夢見村にて」と「悪魚の海」。

「夢見村にて」は主人公、天木薫が夢を売買するという風習をもった村に実地調査に訪れたところから始まる。夢見村の人々は昔から夢を売買取引するという不可思議な風習を持っているのだが、そこでは吉夢とされているものに価値がついており、逆に凶夢は誰かに売買や譲渡しなければ不幸を呼び寄せる。そして異常に夢に執着する村人たちは夢を人殺しをしてまで奪おうとするのだが、主人公はこれに巻き込まれてしまう、、、という話。

読んでいるうちに現実と夢の境がつかなくなり、めまいがするような構成になっている。筒井康隆の『パプリカ』のように、やはり夢の世界が描かれると常にシーンが重層的になっていて、さらに層と層の明確な句切れがわからず、読んでいるものは魅惑的混乱に陥る。そのようなストーリーの構成の仕方も素晴らしかった!

それにしても夢を売り買いするっていう発想が日本に昔からあるということに驚いた。吉備真備北条政子は他人の吉夢を買い取ることで大成したと言われているらしい。怪異なことのように見られるが、もし夢が予知夢として現実を予告するものであるとすればそれはとんでもなく貴重な情報であるため、そこに価値が生じるのは当然でしょうね。しっかし、逆に買い取ってもらうということを考えると、単に夢=情報っていうことでないということが考えられる。現代とは違った夢認識があるとすれば大変興味深い…。

もうひとつのお話、「悪魚の海」も面白かった。ある村では海女たちが人魚になってしまうという物語なのだが、人魚や悪魚の描写が衝撃的で「夢見村にて」とはまた違った印象を受けたが、伊藤潤二の漫画のような怪異さとスピード感があり私好みだった。おとぎ話の人魚姫とは違って、日本における人魚の話にはいつも人間の業が関わっている気がして、おもしろい。SIRENにでてくるような人魚伝説や人魚の剥製作成等…何か人間の陰画のような役割を果たしているんじゃなかろうか…。