ザ・トライブ:無音の中から生成する騒音

このあいだ、『ザ・トライブ』という映画を観た。セリフも字幕も音楽もなし、ということで公開前から割と話題になっていた作品。セリフがない、というのは映画の舞台が聾学校であるため、全員が手話で会話を行うからです。

寄宿制の聾学校に転校してきた主人公。風景を見る限り、いかにも治安が悪そうな場所で、寮の中も荒れています。学校の風景はいかにも普通の学校のように見えますが、その聾学校の暗部には犯罪組織「トライブ」が存在しており、ドラッグや売春、窃盗などの犯罪行為が行われています。

主人公は当然、よそから来た人間なので最初はからかわれたりして、邪険にされますが、ある日決闘でその肉体的強さを証明することによって犯罪組織に加入します。下級生を監督したり、売春の送迎をする係となったのですが、主人公は売春をしている女子一人に恋をしてしまいます。その女子は売春で貯めたお金でイタリアで生活することを夢見ていたわけですが、その女子と離れたくない主人公は彼女が苦労して手に入れたパスポートを力づくで奪い、破り捨てます。その行動によって主人公は仲間から制裁を加えられますが、最後に主人公は寮で寝ている数人の仲間をベッド横のサイドテーブルで殴り殺していきます。終劇。

大まかなあらすじは以上です。そして、全編手話でしかも字幕なしなので、細かなところは把握できていない部分があります。

暴力、セックス、殺人といった様々な描写が、この映画の衝撃力を作り上げていますが、なんといってもそれらが音もなく繰り広げられているというところに特徴があると言えます。しかし、無音というわけでもなく、物を壊すときに発せられる音、手話を使う際に行われる身体全体の動きの音といった、出演者には聞こえない音を鑑賞者は聴くことになり、また静寂の中にとてつもなく激しい暴力の音を聴くことになります。また、その中に絶えず反響する不良たちの悲しみの音色も聞こえて来るような気がしました。

主人公は破滅的な場所で少女を愛したが、少女はその愛を拒絶した。映画のコピーは、「少年は愛を欲望した。少女は愛なんか信じてなかった。」ですが、悲しみの連鎖が起こる退廃的な場所で見出された希望は、それがどんなに細やかで崇高なものだったとしても報われないという悲劇を表していたのではないでしょうか。